海外戦没者と向き合う必要性を改めて思い起こさせる

海外戦没者の戦後史: 遺骨帰還と慰霊 (歴史文化ライブラリー)

日本社会が一番忘れてはいけないものの一つが今なお帰還しない海外戦没者の遺体・遺骨の問題である。
太平洋戦争において斃れた我が国の兵士の数は未曾有の量であるが、多くはいまだ異国の山野に遺棄されたままである。
そして遺骨が風化していく以上の早さで、今この現代日本において戦没者の記憶は風化しようとしている。

本書は戦後日本政府が行ってきた海外戦没者の遺骨収集の歴史を体系的に叙述する。
戦没者の遺骨をどこにどう埋葬し、どう弔うかという問題に日本政府がどう対応してきたか、同時に海外戦没者の慰霊には相手国との良好な外交関係を築くことがいかに大事かということが痛切に理解できる内容である。
そして海外戦没者の問題を通して見えてくるのは日本がどれほど周辺諸国に憎しみの種を蒔いてしまったかという事実であり、それでもなお死者を弔うことに理解を示して我が国の過去の行為に不満を持ちながらも受け入れてくれた各国の温かい対応の数々である。
これは決して忘れてはいけない。

私はしかし、この戦没者慰霊がやはり現在の日本社会で十分に周知されているとは思えず、そのことが日本人が先の戦争での不正義を忘れてしまうことにつながっているのではないかと危惧する。
本書にも記されているが、国のために死命を賭して戦い、苦労して日本にたどり着いた復員兵が受けた仕打ちは冷淡なものがあった。
戦没者の遺骨も同様の仕打ちを受けていないかと私は心配する。
政教分離の原則があるとはいえ、千鳥ヶ淵のことを日本人はあまりに忘れすぎではないだろうか。
靖国の政治問題を論じる前に、千鳥ヶ淵に静かな黙祷と反省を捧げるべきのように思う。
もちろん本書に述べられている遺族会の意向もあるように、靖国神社をおろそかにすべきではないと私は思うが、周辺国を刺激する形での強引なやり方で弔うことが英霊の志に適うのか疑問だ。
英霊とまつりあげ偏狭なナショナリズムの偶像にする前に、彼ら自身の人生と向き合い日本人の礎として弔い、学ぶ必要が我々にはあるのではなかろうか。
そしてその学びは世界平和につながるものでなくてはならず、周辺諸国との軋轢を生むものになってはいけないはずである。

天皇陛下は我々国民ができないことを粛々とやってくださっている。
この国の政府が粛々と沖縄に住む国民の世論を無視して辺野古を埋め立て、国会まで詰めかけた市民デモの声を無視して粛々と憲法の精神に反する法律を制定している間に。
陛下の高い志に私は尊敬の念を素直に抱く。
この本を手に取ったのも陛下の行幸により気づきを与えられたおかげであった。
この本は今読まれる価値があると私は思う。
この本を読めば沖縄の人々が戦後すぐの混乱した中でも戦没者をどれだけ大切に扱ってくれたかがわかるというのに、政府は沖縄の民意を容易に踏みにじることができるのだから。

海外戦没者の戦後史: 遺骨帰還と慰霊 (歴史文化ライブラリー)

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